授業レポート:東葉高校1年生を対象に初の「公共」授業


2022年10月、千葉県船橋市にある私立東葉高等学校の1年生を対象に、新学習指導要領で誕生した必履修科目「公共」において、僕基地を活用した初めての授業を実施することができました。今後の展開に向けて、たくさんのノウハウを培うことができましたので、以下、レポートします。

【参考】今回の東葉高校のプレスリリースはこちら https://toyohs.ed.jp/topics/20221004news/


10月11日にまず2クラス、13日に1クラス、そして、14日には報道機関への公開授業の形をとって1クラス、計4クラス、約140名の生徒がゲームによる学びを進めてくれたこととなります。

今回の目標は、僕基地を使って、(1)最短2コマを使って授業を完結できること、また、(2)生徒による「テーブルファシリテーター」(各テーブルのゲーム進行をアシストする要員)の実践を成功させ、(3)先生が主導権を持ち、自立的に授業できることを実証するというものでした。さらには、後半ではゲームのフィクションの世界から発展して、(4)学習指導要領でも掲げられている、実社会、現実問題に落とし込んで考えるという部分にどこまで踏み込めるか、にもチャレンジすることでした。
東葉高校の絶大なご理解と、担当してくださった池田雄斗先生のご尽力により、目標とするところの多くを達成することができたのではないかと思っています。

◆東葉高校さんとのつながり

テストプレイ時の様子(2020年秋)

まず、東葉高校さんとのご縁ですが、始まりは2020年3月にさかのぼります。僕基地のプロトタイプ(試作品)ができたとき、6時の公共が千葉県内の高校の地歴公民科の先生向けに、プロトタイプ改善ワークショップを開催する旨を案内しました。その際、東葉高校池田先生から参加表明のお声をいただきました。残念ながらその時は、ちょうど感染症が拡大を見せた頃で、池田先生のワークショップへの参加は叶いませんでしたが、この時にできたつながりをきっかけに、2020年10月上旬、同校の数名の生徒さんによるテストプレイが実現。その時に生徒さんからいただいたアイデアをもとにして、プレイボードの色合いを調整するなど、ゲーム完成前の改善を図ることができました。
その後、しばらくはコロナ禍で、対面授業が実施できずにいましたが、新学習指導要領が始まる2022年度の「公共」での授業実践に向けて、池田先生とは水面下でご相談を続けてきたのでした。

◆2コマ授業での実践

晴れて、感染症も落ち着きを見せた2022年の夏から、先生と具体的な調整を進め、授業の2コマ連続の時間設定と、先生を中心とした授業運営ができるよう、6時の公共による具体的なサポートの方法、学習指導案について協議を行いました。
授業は、1限目にゲームプレイ、多少の食い込みの調整を行いつつ、おおよそ2限目にゲームによる振り返りと、実社会に置き換えた考察を進めるという構成にすることにしました。
(なお、実社会に置き換えた考察部分については、時間の都合上、全部を完結できない可能性が高いため、そこは、続く3時間目の前半で引き継いでくださることも前提に進めました。)実社会に置き換えた考察については、学校が抱える、高校周辺での「交通マナー問題」について、生徒が市民等と協働して解決できる方策を模索する、というテーマを設定することとしました。なお、この授業の前には、ちょうど、教科書で「参政権や請求権」を学んで少し経ったところ、また、この秋には続いて「地方自治」が取り扱われるため、請願をモチーフにした本ゲームを導入するタイミングとしては1つのケースとして、よい時期だったといえます。

また、全4クラスのうち、1クラスについては、様々なパターンでの効果を検証できるよう、あえて、2連続とせず、通常の時間割のとおり、1コマずつ、すなわち、1限目にゲームプレイを完結、一度ゲームを片付けて、間を置いて次の授業で振り返りの授業を行うという形式を取ってみることとしました。
直前まで、超多忙な池田先生のスケジュールが空かず、具体的なことは、まさに授業の1か月前から直前期に決めていく形となりましたが、なんとか、本番を迎えることができました。

◆テーブルファシリテーターの育成

テーブルファシリテーター説明会の様子(2022年10月4日)

まず、先生が自立的に授業を回す上で欠かせいない「テーブルファシリテーター」の育成については、授業に先立ち、10月4日に6時の公共が学校を訪問。あらかじめ決めておいていただいた、各クラス5名ずつ選抜の生徒さんたちを対象に、「テーブルファシリテーター説明会」を1時間20分程度で実施しました。まず、授業本番と同じようにゲームプレイを実施し、続いて、授業本番で各テーブルのプレイをどのように進行するか、ポイントや具体的なシナリオ見本も配布しながら説明を行いました。この時には、各生徒さんがファシリテーションを練習する時間までは取っていませんでしたが、本番まで1週間程度あるため、時間があれば、休み時間や放課後などを使って練習してもらうようにお願いをしました。

◆先生主導による授業実践

11日は、まずは6時の公共を講師として、1・2限、3・4限のそれぞれの授業のうち、1時限目から2時限目の途中まで、6時の公共が中心となり、ゲームプレイの進行とゲームによる振り返りの進行を行いました。

13日には、11日に実施した6時の公共の様子から、ポイントやより生徒にわかりやすい説明方法等を池田先生自ら研究していただき、13日、14日の授業は、池田先生がほぼ単独で授業を進めていただきました。

私たち6時の公共が授業を進めることは、社会人講師との接触による刺激が得られるという意味でメリットもある一方で、まず冒頭で生徒との距離感を埋めるために、限られた授業時間の中から、アイスブレイク的要素に多少時間を割いたり、生徒の理解を確認するために時間を要する傾向があります。先生が初めから最後まで授業を進行する最大のメリットとしては、やはり、日頃から生徒たちとの信頼関係ができているところで、進行が非常にスムーズであること、生徒たちの理解を最大限引き出しやすい言葉遣い、解説方法を即座に選択できるという点にあると思いました。

14日は、公開授業ということもあり、これまでの2日間の実践の経験から良いとこ取りをし、全体進行は池田先生が行い、途中、大事な情報やメッセージは6時の公共から補足していく、という連携型のスタイルを取りました。

ゲームのあそび方説明をする池田先生
6時の公共の説明にもしっかり耳を傾けてくれた生徒の皆さん


生徒によるテーブルファシリテーションについては、これも、11日初日に実践してみたところでは、不慣れなところで、生徒により内容面でそれなりに差が出たり、どうしても時間が多めにかかってしまうという側面があることがわかったため、プレイ時間を確保するためにも、共通する説明部分は先生が行い、プレイが始まってからの進行は生徒によるファシリテーションに任せる、という手法を取りました。なお、どうしても、育成したファシリテーターが当日急きょお休みということもありましたので、その場合には、ファシリテーターが不在のテーブルに、6時の公共や先生自らがファシリテーターで入る、という対策を取りました。

時間管理と手番の指示を行うテーブルファシリテーター(中央)

授業を先生が自律的に行う上でのポイントとして、ゲームの準備と片付けについてわかったこともあります。
特別教室などを手配しておいて、机の配置やゲームのセッティングを、授業が始まる前に完全に完了しておくことができる場合は別ですが、普通の教室で机配置とゲームセッティングを行う場合は、たとえ休憩時間に準備を始めたとしても、ホームルーム後や10分休憩などの短い時間の中では、準備は間に合わないということです。
その場合、授業が始まってから、生徒の協力を得ながら、先生がこまめに指示を出し、机のレイアウト(休みの生徒がいた場合の再編成も含めて)やゲームセッティングを行う時間を、5分程度確保することが重要だということがわかりました。片付けについても同様に5分程度時間をとり、順番に指示出ししながら片付けるということが必要となります。
こうした時間を見越して差し引いた時間内で手際よくゲームを進めていくことが実は大切であることもわかりました。
実践で得た細かな知見やノウハウは、今後にしっかりと引き継いでいきたいと思います。

◆ゲームの振り返りから、現実問題に落とし込んで考える

2限目に入ってから行ったゲームを通した学びの振り返りでは、まず、選択した人物カードを見渡してみて、請願の旅における「キーマン」はどの人物であったか、また、その理由を考えた上で、請願する上で必要なことを洗い出していく、というワークを行いました。こうしたワークにおいても、池田先生が促してくれたように、表面的にカードの機能としての働きではなく、カード裏に書かれているフレイバーテキスト(人物の特徴)も踏まえながら、実社会に置き換えてどのような物語が起きていたのかに思いを馳せてみるように指導していくことが効果的であるということがわかりました。

2限目の後半では、さらに実社会に置き換えた考察に落とし込んでいくため、学校が近隣住民等からいただいているご意見(クレーム)を確認した上で、それらから1つの問題となっている道路上のポイントをテーマに取り上げ、どのようにその問題を解決に導くことができるかを考えていきました。

2限目後半のワーク冒頭にて、「市民からのご意見」を紹介

ここで池田先生から指導のあった内容としては、先ほどゲームで学んできたポイントとして、①多くのステークホルダーと出会い、協働することの大切さ、②一見、利害が一致しない人とも、対立するのではなく、協働していくことで合意形成が図れる可能性があることを念頭に置きながら、考察を進めていくということです。こうした考察を進めていく上では、池田先生が、数あるクレームのうち、他の道路上での問題点について、学校の生活指導部長にヒアリングし、様々なステークホルダーの見解などを丁寧にまとめた参考資料や、自治体が計画策定のために実施した市民ワークショップの公開資料などを配布し、様々な視点から課題をとらえることができるようにする工夫が施されました。
2時限目ではゆっくり資料を読み解き、話し合いを重ねるところまではいきませんでしたが、次回3時間目の途中までを使い、考察内容の共有が図られる予定となっています。

ワークに熱心に取り組む様子

◆さいごに

今回の公共での初授業を通して、以下のような点を確認することができました。

  • 先生が単独で授業を実施することは可能であること。
  • その上では、欠席者調整を含む机の編成や、準備・片付けの時間を授業時間に含めてマネジメントを行うこと。
  • 2時間連続の場合、1時間ずつ細切れで実施する場合、いずれの場合においても、できるだけ1時限目でプレイを完結させられると、後半のワークにゆとりが生まれ、充実した振り返りができること。
  • 各テーブルのプレイ進行を円滑に行うためのテーブルファシリテーターについては、慣れない生徒さんでも運営できる適正なタスクの守備範囲を設定(タイムキープや細かな質問対応など)してあげることが、プレイ時間をしっかり確保していくためにも重要であること。共通する部分は先生が説明を行い、テーブルファシリテーターとなる生徒さんには、プレイ中の進行管理に集中してもらうのが効率的であること。
  • 学習指導要領の求める「実社会に落とし込んで」考えるため、必ずしも請願という大きなステージの課題解決を目指すのではなく、生徒たちの目線で見えてくる身近な地域の課題解決などに目を向けたワークを組み合わせていくことが効果的であること。

こうした知見を土台として、今後、さらなる改善を図り、僕基地を活用した学びを導入いただける学校が増えていくよう、できるだけのサポートをしていきたいと考えます。
2019年5月からスタートしたまちづくり学習教材開発プロジェクト。2020年11月のゲーム教材発表、コロナ禍を経て、目標としていた「公共」での導入について、大きな一歩を踏み出すことができました。
あらためて、私たちのチャレンジを共に進めてくださった東葉高校さん、授業に参加してくれた生徒の皆さんに深く感謝したいと思います。

今回もセイガン達成したチームがたくさん出てきました。おめでとうございます!

授業を受けての感想(一部紹介)

✓学生でも請願ができ地域のルールを変更できる力があるのだと知れた。
✓身近にいる人が協力してくれるということがどれほど大切なことかを忘れてはいけないということがわかったことです。請願するまでの細かな流れなど実際請願が通った例など学び深めてみたいと感じました。
✓自分の利益だけ考えるのではなく、相手側にたったときにその人にもメリットがあるのかを考える。
✓町づくりに対して、今までとは違った視点を持てるようになった。
✓思っていたより色んな年齢の人たちや立場の人、性格だったりがあって街や市の改善につながっているんだなと思いました。ただ意見を言ってるだけで行動しなかったらなんも変わらないんだなとよくわかりました。
✓色々な職業が知ることができてよかった。
✓問題解決の為に色々な人との関わりを持って協力して行動していけば良いことがわかった。
✓すごくすごく楽しかったです!!難しいけど、友達と協力して出来て有意義な時間でした。
✓普段は聞いて覚えてで、頭でちゃんと理解できてる実感がなかったけど、今回のようにゲームにすることで知識を深められたと実感できてよかったです。ファシリテーターも内容が難しかったので思うようにいかなかったけどいい経験になりました。

※先生や生徒の皆さんの感想などは2022年12月末までにインタビュー動画でも配信予定です。

6時の公共 事務局